デジタル・ウェルビーイングからアジア的ウェルビーイングへ
わたしは2008年4月に株式会社ディヴィデュアルを創業し、さまざまなオンラインコミュニティの企画・設計・実装・運営に携わるにつれ、情報技術が人々の心理にもたらす正負の影響について考えるようになりました。2015年頃にはすでに米国において、それまで顧みられることの少なかったウェルビーイング、つまり「良い心の状態」に資する技術設計に関する議論が活性化しており、日本においても同様の議論が必要であると感じていました。
2016年度には情報技術とウェルビーイングの関係を説いたRafael A. Calvo, Dorian Peters「Positive Computing: Technology for Wellbeing and Human Potential」(MIT Press)の邦訳監修をNTTコミュニケーション科学基礎研究所の渡邉淳司さんと行い、ビー・エヌ・エヌ新社より『ウェルビーイングの設計論人がよりよく生きるための情報技術』として刊行しつつ、JST RISTEX HITE(人と情報のエコシステム)に「日本的 Wellbeing を促進する情報技術のためのガイドラインの策定と普及」プロジェクト(代表:安藤 英由樹)が採択され、分担研究者として参画しました。
日本的 Wellbeing を促進する情報技術のためのガイドラインの策定と普及 - 人と情報のエコシステム
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ウェルビーイングの設計論
人の「こころ」の領域にまでITが入り込んできた今、人間の潜在能力を高め、よりいきいきとした状態(=ウェルビーイング)を実現するテクノロジーの設計、すなわち<ポジティブ・コンピューティング>のアプローチが求められています。近年注目されている「マインドフルネス」や「レジリエンス」、「フロー」などもウェルビーイングを育むための要因ですが、ではこういった心理的な要因とテクノロジーを、どう掛け合わせることが出来るでしょうか。本書では、ウェルビーイングに関する様々な分野の最新の研究成果を基に、この問いを解き明かしていきます。これからのテクノロジーの在り方や、向き合い方を考えるうえでの基盤となる一冊です。****人間がよりよく生きるとはどういうことだろうか? 心という数値化できないものを、情報技術はどうやって扱えばよいのだろうか? 本書は、このような問いに答えようとする者に対して、示唆に富んだヒントを与えてくれるだろう。(「監訳者のことば」より)****
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HITEプロジェクトで国内外の調査を進める中で浮き彫りになったのは、欧米社会を中心に行われてきたウェルビーイング研究から生まれた理論モデルでは、個々人を独立した存在としてみなす個人主義的な思考が強く影響しているのではないかという問いでした。そこで、主語と対象を単数一人称「わたし」から複数一人称「わたしたち」へと切り替え、個々人を切り離すかたちではなく、関係性においてとらえたときにウェルビーイングという考え方がどのように立ち現れるのか、ということを考え始めました。
「わたし」のウェルビーイングから、「わたしたち」のウェルビーイングへ:ドミニク・チェン
ウェルビーイングが「個」に根差した尺度で測られるものだとすれば、そこから抜け落ちるものは何だろうか? 日本におけるウェルビーイングの可能性を探求するドミニク・チェンは、主観的なウェルビーイングの因子に地域文化ごとの差異があることを手がかりとして、他者を自己と連続するものとして捉えるわたしたちの世界認識の先に、固有性に根差した「共」のウェルビーイングを提示する。(雑誌『WIRED』日本版VOL.32より転載)
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2019年には主に日本国内において、「個でありながら共」という文化的価値観について複数の実践者たちに寄稿いただいた『わたしたちのウェルビーイングをつくりあうためにその思想、実践、技術』という書籍の編著と監修を渡邉淳司さんと行い、ビー・エヌ・エヌ新社より刊行しました。
わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために – その思想、実践、技術
「ウェルビーイング(Wellbeing)」とは、身体的にも、精神的にも、そして社会的にも「よい状態」のこと。心身ともに満たされた状態であることを指す言葉です。情報技術が私たちの暮らしを便利にする一方で、利用者の心の状態への負の影響も指摘されている現在、ウェルビーイングに対する注目が高まっています。本書は、ウェルビーイングとは何なのか、そしてそれをどのようにつくりあうことができるのかについて解説した書籍です。わかりあえなさのヴェールに包まれた他者同士が、根源的な関係性を築き上げ、共に生きていくための思想、実践、技術を照らし出します。ユーザーに愛されるプロダクトやサービスの設計を目指すデザイナー、エンジニア、ビジネスパーソン、また、組織環境を良くしたい人事・総務担当者などにおすすめの一冊です。「わたし」のウェルビーイングから、「わたしたちの」ウェルビーイングへ。「個でありながら共」という日本的なウェルビーイングのあり方を探求します。論考:伊藤亜紗/生貝直人/石川善樹/岡田美智男/小澤いぶき/神居文彰/木村大治/小林 茂/田中浩也/出口康夫/水野 祐/安田 登/山口揚平/吉田成朗/ラファエル・カルヴォ
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2023年には、より具体的に「わたしたちのウェルビーイング」を実現するためのデザインガイドブックを刊行予定です。
参考文献
- ドミニク チェン:行政におけるウェルビーイングの設計、行政&情報システム連載
- サービソロジー 2019年
- VR学会誌 2018年
集団性と自律性:間主観的ウェルビーイングに向けて
サービソロジー, 2019 年 5 巻 4 号 p. 4-8
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インターネットにおけるwell-beingの問題と日本社会における対応可能性について
日本バーチャルリアリティ学会誌, 2018 年 23 巻 1 号 p. 19-25
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