『多様性とどう向き合うか 違和感から考える』岩渕功一著(岩波新書)
差異と付き合い共生
「多様性」という言葉は今や至るところで聞かれるようになったが、その意味を丁寧に問い直す機会は意外と少ない。本書は、メディア・文化研究の第一人者である著者が、多様性をめぐる様々な「違和感」を出発点として、この概念が 孕はら む矛盾と可能性を解きほぐす一冊だ。
著者はまず、多様性を称賛する語りの陥穽を明らかにする。移民の文化が社会を豊かにするという肯定的な語りにおいては、「社会の中心にいる人たちだけが移民やエスニック集団といった周縁化された人たちの文化を評価・選別して受け入れることができる立場にある」。つまり多様性の奨励が、マジョリティの優位性を温存する装置にもなりうるのだ。東京五輪で「多様性と調和」が掲げられた傍らで、入管施設での非人道的処遇や同性婚の不承認が放置されていた現実は、形だけの多様性がいかに空虚であるかを物語っている。
本書が力を込めるのは、他者の困難を「自分ごと」とするための思考の道筋だ。著者は歴史学者モーリス=スズキの「連累」の概念を引き、過去の人権侵害によって受益した社会に生きている私たちには不公正を是正する務めがあると説く。さらに、異なる差別経験の間に同一性ではなく「類縁性」を見出すインターセクショナリティ(異なる社会的属性が交差し、固有の抑圧を生み出すこと)の視座を経て、「協繋」という造語を提案する。異なる価値観を持つ人々が対等な関係で不公正にともに抗うための、しなやかな連帯の形である。
必ずしも調和的ではない共生の複雑な現実から目を背けず、互いの差異に慣れていくこともまた重要であると著者は論じる。この視座は、反多様性の動きが世界的に高まる今、切実な意味を持つ。
血縁主義に基づく国籍観が根強く、包括的な差別禁止法すら存在しない日本において、異なる他者の困難に対する想像力を育む制度と文化は脆弱である。評者は日本に住む外国籍の一市民として、「違和感に開き直ることなく問い続ける」ための手引きである本書が、広く読まれることを強く願う。(990円)