早稲田大学文学学術院 文学研究科 表象メディア論コース所属の学生が対象の修士論文と博士論文の指導および他研究室所属の学生も参加可能なゼミを開講しています。
修士論文・博士論文指導
(表象・メディア論研究指導9-1M/D)
ドミニク・チェン研究室では、メディア論的な視座をもとに現代的なメディア・テクノロジー全般に関する研究を行いたい修士課程・博士課程生を受け入れています。人文科学の講義を履修できる文学研究科コースの利点を活かして、表象メディア論、人類学、エスノメソドロジーなどの方法論を参照しながら、当事者性のあるHuman Computer Interactionや相互行為論研究を指導します。修士、博士の両方で、テーマは学生それぞれの背景にある問題意識から決定することを重視し、前半は関連動向のサーベイとディスカッションを繰り返し、後半から予備実験や執筆に入っていきます。
タイトル | 氏名 | 種別 | 年度 | 副査 | 備考 |
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荒川 宗佑 | 修士論文 | 2023 | |||
吉村 佳純 | 修士論文 | 2023 | CHI2024 Paper採択 | ||
Zhang Zhao | 修士論文 | 2021 | 2021年度 優秀修士論文 | ||
小薗江 愛理 | 修士論文 | 2020 | 細馬宏通, 橋本一径 | 2020年度 優秀修士論文 | |
佐久間 慧 | 修士論文 | 2018 | 草原真知子, 森山朋絵 |
院ゼミ(通年)
(表象・メディア論演習9-1/9-2 [通年科目])
院ゼミでは、ドミニク・チェン研究室所属の学生と、その時々で集まる他研究室所属の学生の方々とで、いつも多様な専門分野の参加者が集まるので、何を行うかは事前には決めておかず、毎年春の前半にディスカッションを行い、通年で研究するテーマを決めていきます。各参加者の修士論文の経過報告や、輪読会も適宜行いますが、研究指導の場というよりはそれぞれの専門や経験を活かし合い、学際的な「遊び」を通して、思考の振れ幅を広げることを目指します。
副題 | 人文学とデザインを接続する |
授業概要 | この大学院演習では、文献輪読や作品制作を通して、現代テクノロジーのデザインと人文学的コンセプトへの「理解」と「実感」を深めることを目的とします。
教員のチェンは、Human Computer Interaction(HCI、人間とコンピュータの相互作用)研究の分野で活動しており、これまでmore-than-human概念を基に微生物と人が相互作用するロボット「Nukabot」の制作と実験、共在感覚(social presence)と共話(synlogue)の研究、ケアの視点に根ざした情報技術設計の研究、などを行ってきました。また、展覧会のディレクション(21_21 DESIGN SIGHT「トランスレーションズ展」)やインスタレーション作品の制作と展示(あいちトリエンナーレ2019「Last Words/Type Trace」など)も行ってきました。このような背景を活かして、時には文献を読み解き、時には手を動かしながら、研究的思考を深められる演習を目指しています。
この演習では、多様な背景からの履修生を歓迎し、年度毎でのメンバー構成の違いを活かした研究プロジェクトを立ち上げてきました(他大院からのモグリの人が参加する場合もあります)。
近年の、特にパンデミック以降における、わたしたちの生活環境をとりまく情報技術の諸問題をテーマに取り上げ、人文学の視点から情報技術のデザインを論じる文献を読みながら、この演習で集まったメンバーによる「提案」を協働しながら構想します。提案の内容と形式は、共著論文、ウェブサービス、調査記録、映像作品、インスタレーション、デバイス、あそび・ゲームなど、その時々での可能性を探り、決定します。一方的に「教える」形式は取らないので、参加者による積極的な議論と提案を歓迎します。また、ディスカッションや協働作業が多いので、学生同士の交流の場としても機能することを期待します。
議論対象となる概念(これに限りません):
・メディア・テクノロジー研究、メディア考古学
・ウェルビーイング / デジタル・ウェルビーイング研究
・ポストヒューマニティーズ(マルチスピーシーズ、モアザンヒューマン、エコフェミニズム)の議論
議論対象となるITトピックの例(これに限りません):
・生成系AI:GPT-3, ChatGPTなどのテキスト生成、Stable Diffusion/DALL-E2などのイメージ生成の技術群
・SNS:アテンション・エコノミー、フィルターバブル・エコーチャンバー、フェイクニュースなど
・Web3:自律分散組織(DAO)、NFT(非代替性トークン)、ブロックチェーン
これまでの本演習で行ってきたプロジェクトは本ページ下部を参照してください。
・2018~2019: 書評サイトextextの構想と実装(http://www.extext.io/)
・2020~2021: コロナ禍でのリモートコミュニケーションの実験:アバター制作、メタバースのワールド制作+実験、作品制作
・「遊び」の考察とデザイン:
・2022: ミゲル・シカール『プレイ・マターズ』輪読+ルール逸脱ゲーム「addminton」の制作と展示
・2023: 関係論的協力ゲーム「ecodentity」、および『環世界の人文学』輪読+「econdentity walk」、「ecodentity ocean」の制作と展示 |
授業の到達目標 | 前期の前半は互いの関心領域の紹介とわかちあいを行い、議論を中心に手を動かすテーマを見つけ、そこから後期で具現化する内容について協議していきます。後期においては、具体的な提案をかたちにしていく協働作業を行い、学期末に発表を行います。
発表は、できれば学外の人たちからもフィードバックがもらえるかたち(展示、発表会)を探ります。この演習を通して、自分とは専門の異なる同輩たちとの協働や、研究概念との出会いを体験してもらえたらと思います。 |
事前・事後学習の内容 | 事前の学習内容は特に指示しませんが、授業概要に示した過去の活動(ウェブサイト)の他にも、担当教員の研究や表現活動についてもある程度知っておいてもらえるといいでしょう。興味のある人は以下の著作も参照してもらえたらと思います。
論文など:
1. (書籍)Dominique Chen. 2024. “The Lesson of Affection from the Weak Robots”. In Jitka Čejková Ed., Karel Čapek’s R.U.R. and the vision of artificial life. pp.227-232. MIT Press.
2. (書籍)渡邊淳司,ドミニク・チェン「ウェルビーイングのつくりかた:「わたし」と「わたしたち」をつなぐデザインガイド」ビー・エヌ・エヌ新社. 2023年9月21日(ISBN: 978-4802510431)
3. (査読付論文)チェン ドミニク,ソン ヨンア,城 一裕,他. 2023.「人と微生物の相互ケアを育むインタラクション - Nukabotの設計と評価を通して」,情報処理学会論文誌,64-2, pp.301-311
4. (書籍)ドミニク・チェン. 2022.「非規範的な倫理生成の技術に向けて」. 西垣通編. AI・ロボットと共存の倫理所収, pp.69-95. 岩波書店 2022年7月 (ISBN: 9784000223133)
5. (書籍)Katz, Sandor Ellix・著,水原文・訳, ドミニク・チェン・監訳. メタファーとしての発酵. オライリー・ジャパン 2021年9月 (ISBN: 9784873119632)
6. (査読付論文)Dominique Chen, et al. 2021. Nukabot: Design of Care for Human-Microbe Relationships. In CHI ’21 Extended Abstracts, May 8-13, 2021, 7 pages. doi.org/10.1145/3411763.3451605
7. (学会発表)ドミニク・チェン. 2020. Design for Mutual Care:
An Exploration into Human-Microbe Relationships with Nukabot. 日本記号学会第 40 回大会「記号・機械・発酵 ──「生命」を問いなおす」セッション 3「分解と発酵の記号論」2020.11.15
8. (査読付論文)D. Chen, H. Ogura, and Y.A. Seong. 2019. NukaBot: Research and Design of a Human-Microbe Interaction Model. The 2019 Conference on Artificial Life 2019 NO. 31, pp. 48-49
単著・共著作・訳書など:
・『コモンズとしての日本近代文学』(イースト・プレス)
・『未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために』(新潮社)
・『電脳のレリギオ:ビッグデータ社会で心をつくる』(NTT出版)
・『インターネットを生命化する:プロクロニズムの思想と実践』(青土社)
・『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック:クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』(フィルムアート社)
・『SPECULATIONS: 人間中心主義のデザインをこえて』(BNN新社、川崎和也らとの共著)
・『情報環世界:身体とAIの間であそぶガイドブック』(NTT出版:伊藤亜紗、渡邊淳司、緒方壽人、塚田有那との共著)
・『作って動かすALife:実装を通した人工生命モデル理論入門』(オライリー・ジャパン、2018年7月)
・『謎床:思考が発酵する編集術』(晶文社、松岡正剛との共著)
・『ウェルビーイングの設計論:人がよりよく生きるための情報技術』(BNN新社)
・『シンギュラリティ:人工知能から超知能まで』(NTT出版) |
授業計画 | 毎年、多様な背景を持つ履修生が集まります。初回では、それぞれの自己紹介と研究的関心を話し合い、続く数回で参加者それぞれの修士・博士論文の研究計画を発表してもらい、この演習のテーマとの接合点を探りながら、前期で取り上げる輪読文献の選定や構想プロジェクトの内容を話し合っていきます。その後は輪読レポートの発表を繰り返したり、ゲストを迎えたディスカッションを行いながら、前期の終わりに後期につなげるプロジェクトの内容を決定することを目指します。 |
教科書 | 特に指定しません。 |
参考文献 | 前期前半の議論を経て、必要に応じて指示します。 |
成績評価方法 | 試験は設けません。毎回の出席と積極的な参加、課題の提出に基づき、総合的に評価します。 |
これまでの院ゼミでの活動:
2017年度:ウェブ上の良質な書評を再考する(構想フェーズ)
テキストを読み、書くというフィードバックループについてシステム論的に考えるディスカッションから始まり、ウェブ上に良質な書評空間が不在であるという問題意識にたどり着き、実際に参加者同士で文学作品の書評を執筆、相互レビューを繰り返しながら、ウェブ書評サービスの設計を行った。
2018年度:ウェブ上の良質な書評を実装する(実装フェーズ)
前年度で設計したウェブサービスを実際に実装し、ウェブサービス「extext」として公開することを目指した。Githubを使った協調コーディング、IllustratorやXDを用いた画面設計を通して研究室サーバー上で構築し、後期で学内限定で公開し、学部の授業や演習で活用した。また、大学院同人誌『In-vention』にて履修生全員の共著で論文「リレー書評サイトextextの設計と実装」を投稿した他、戸山キャンパス生協にて特設ブースを設け、選書フェアを行った。
※ コロナ禍以降、授業体制の変更に伴い使用は停止しているが、サイト自体は以下で公開中:
- in-vention論文PDF:
- 学内説明用リーフレット:
2019年度:修士論文指導
当年度は履修者の修士論文指導を行った。
2020年度:コロナ禍におけるリモートコミュニケーションの代替案を試行する
授業がフルオンラインに移行する中、ディスカッションのしづらさについて当事者研究的に話し合いを繰り返し、既存のオンラインサービスを利用してさまざまな試行錯誤を行った。Zoom上の2D/3Dアバターの自作、ZoomやメタバースSNS Clusterを用いた空間設計や新しい遊びの実践、作品の自由制作などを行った。
2021年度:「遊び」をデザインする
ハイブリッド授業で対面ディスカッションも再開しつつ、前年度で行った「遊び」の相互作用を探求するために、ミゲル・シカール『プレイ・マターズ』(フィルムアート社)を輪読しながら、「流用」概念を基軸に新しい遊びのデザインを行った。バドミントンの審判がプレイヤーには秘匿するルールを都度作り出し、プレイごとに不透明な加点と減点を加える「アドミントン」というゲームを考案し、年度末の学部ゼミ展示「唯言在中」にて記録映像を出展した。
2022年度:特別研究期間中につき休講
2023年度:Ecodentity
- 前期において、動物や植物などの非人間と人間の関係性というテーマを取り上げ、非人間の環世界の視点を想像的に体験する方法についてディスカッションを繰り返し、ロールプレイ型カードゲーム「ecodentity」を制作した。2023年7月に戸山キャンパスで開催した発酵メディア研究ゼミ展にて展示し、来場者のプレイを観察した。
- 後期では、ecodentityで行ったことを多角的に検証するために、ユクスキュル『生物から見た世界』(岩波文庫)と『環世界の人文学』(人文書院)の輪読会を開催した。前期の展示来場者であった東京大学大学院から3名参加し、レジュメ発表とディスカッションを繰り返し、そこからecodentityの派生形として「ecodentity: walks」と「ecodentity: ocean」を制作、2024年1月に戸山キャンパスで開催した発酵メディア研究ゼミ展にて展示した。
あなたは誰ですか?生き物にとって「自分/他者が何者であるか」を探るためのヒントは、遺伝的な記憶と環境から得られるフィードバックの二つです。誰かと出会うより前にも後にも、図鑑はもちろん分類も体系も名前も鏡もありません。このゲームでは人間以外の生き物が日常的に行っている「お互いが何者であるかを関わり合いからのフィードバックを通して知る(=ecologicallyにidentifyする)」という体験を再現します。
How to play
- プレイ人数: 3~5人程度
- プレイヤーに、5種類のカードをそれぞれ1枚ずつ配ります。カード内容はサ イズ・能力・食性・移動手段・生息環境から構成されています。 ただし、各プレイヤーは自分のカードを見ることができません。
- カードが用意できたら、自分の両隣のプレイヤーのカードを見て、両者の関係性 を考えてみましょう。例えば、食べる、食べられる関係か? 共生、寄生関係か? のように。関係性が考えられたら、他プレイヤーの外見について絵を描いてみましょう。
- 関係性を考えられたプレイヤーから、順に発表していきます。この時、5つの特 徴について直接伝える事がないように気をつけましょう。各プレイヤーは、自分自身について語られている事をヒントにして、自分が何者であるか考えます。また、関係性を語っているプレイヤーだけでなく、それを聞いている周りのプレイヤーの反応も参考にするといいでしょう。語られる関係性について、頷いたり、首を振ったりしている他プレイヤーの反応も自分が何者かを考えるヒントになります。 各プレイヤーは語られる内容について分からない事があれば、質問する事が可能です。この時も同様に5つの特徴を直接伝える事がないように注意しましょう。関係性の説明と質問を繰り返し、各プレイヤーは自分自身の絵を描いてみてください。
- ポストイットに自分自身の絵を描いていきます。絵の横に自分がどのような特徴 を持っているかも書いてみましょう。各プレイヤーは描かれた絵を見ながら、5つの特徴や、自分が持ったイメージと合う絵を描いたプレイヤーに投票します。より多くの票数を得たプレイヤーがゲームの勝者になります。ここでは自分に関する5つの特徴がわかった上で、それぞれの自分像を語り合うことで様々な視点を得ることができます。
カード集
展示風景
2024年度:To Be Discussed
以下の書籍の輪読会から開始し、ディスカッションを重ねる予定。